2025 年 72 巻 2 号 p. 152-160
目的 本研究の目的は,役割ストレッサーが一次的評価を通じて不安や抑うつ,主観的well-being(以下,SWB)に及ぼす影響を検討することであった。
方法 2023年11–12月にウェブ調査を実施した。調査対象者は,20–64歳のフルタイム従業員2,000人(男性1,093人,女性907人,平均年齢43.28(標準偏差(以下,SD)=11.96)歳)であった。調査項目は,属性(性別,年齢,職種,職位)と役割ストレッサー,一次的評価(無関係,肯定,害–喪失,脅威,挑戦),不安,抑うつ,SWBであった。分析は,一次的評価を従属変数,役割ストレッサーおよび属性を独立変数として,段階的に重回帰分析を行った。その後,不安と抑うつ,SWBを従属変数,一次的評価および属性を独立変数として,段階的に重回帰分析を実施した。
結果 調査対象者のうち,事務従事者および販売従事者を選択した1,260人(男性548人,女性712人,平均年齢44.75(SD=11.61)歳)を有効回答者とした(有効回答率63.0%)。一次的評価を従属変数,役割ストレッサーおよび属性を独立変数とした重回帰分析の結果について,肯定や害–喪失,脅威,挑戦は,「役割不明瞭」および「役割過負荷」に正の影響を与えていた。そして,不安と抑うつ,SWBを従属変数,一次的評価および属性を独立変数とした重回帰分析の結果について,不安は「害–喪失」および「脅威」が正の影響,「挑戦」は負の影響を与えていた。また,抑うつも「害–喪失」および「脅威」が正の影響,「挑戦」は負の影響を与えていた。その一方で,SWBは,「肯定」および「挑戦」が正の影響,役割不明瞭の「害–喪失」,および,役割過負荷の「害–喪失」と「脅威」が負の影響を与えていた。
結論 フルタイムで働く事務・販売従事者は,役割ストレッサーを害–喪失または脅威と知覚するほど,不安および抑うつが増加し,挑戦と評価するほど,不安および抑うつが減少するという結果が得られた。その一方で,本研究では,役割不明瞭を害–喪失と知覚するほどSWBが低下し,肯定および挑戦と評価するほど,SWBが増加していた。また,役割過負荷を害–喪失または脅威と評価するほどSWBが低下し,肯定および挑戦と知覚するほどSWBが増加するという結果が得られた。