2025 年 72 巻 2 号 p. 135-142
目的 2021年から全国の福祉事務所では被保護者健康管理支援事業が開始された。しかしながら,生活保護受給者を対象とした健康診査(以下,「健診」とする)の受診に関する要因は,ほとんど調べられておらず,福祉事務所における被保護者の健康管理に対する意識や行動傾向の実証分析,その分析結果に基づいた取り組みは多いとは言えないのが現状であった。そこで被保護者の特性に応じた健康管理支援を進めるための基礎資料を得るために,生活保護システム,医療扶助レセプトや社会的孤立に関する聞き取り調査のデータを用いて,被保護者の健診受診およびワクチン接種と社会的孤立の関連を明らかにし支援の在り方を検討することとした。
方法 2022年1月1日時点で,仙台市泉福祉事務所管内の被保護者1,739人を対象とした。基本属性,世帯員数,世帯類型,就労の有無については,生活保護システムから把握した。健診受診の有無,新型コロナワクチン接種(以下,ワクチン接種とする)の有無については,医療扶助レセプトから把握した。社会的孤立については,4項目の質問を作成した。健診受診の有無,ワクチン接種の有無の各変数を目的変数として,健診受診およびワクチン接種と社会的孤立の関係を検討するためにロジスティック回帰分析を行った。
活動内容 回答が得られた444人(回答率25.5%)が分析対象となった。健診受診者44人(9.9%),ワクチン接種者336人(75.7%)であった。ロジスティック回帰分析の結果,健診受診は,対面接触,非対面接触,情緒的サポート,手段的サポートが有る場合,それぞれ正の関連を認めた。とくに,対面接触有りの被保護者は,オッズ比が3.59(95%信頼区間:1.85–6.94)であった。健診受診同様,ワクチン接種も対面接触,非対面接触,情緒的サポート,手段的サポートが有る場合,それぞれ正の関連を認めた。とくに,手段的サポート有りの被保護者は,オッズ比が1.58(95%信頼区間:1.02–2.54)であった。
結論 社会関係からの孤立は,健診受診・ワクチン接種のいずれの行動にも影響していたが,両者では,求められているサポートが異なることが示唆された。予防的サービスの勧奨には,対象サービスの手続きの性質や煩雑さなどに応じて,「対面接触」と「オンライン」のサポートを上手く組み合わせる支援を検討することとした。