論文ID: 24-096
目的 兵庫県におけるCOVID-19第8波(2022年10月1日~2023年02月28日と定義)では,圧倒的な感染力のため,いわゆる,医療ひっ迫を来した。兵庫県下の保健所で特徴ある対応をした尼崎市保健所,あかし保健所,洲本保健所(島地域),および朝来保健所(過疎地域)の各圏域に着目し,入院勧告数から算出した「重点病床必要数」と確保病床数との差を病床ひっ迫の指標として,また救急搬送困難事案数を救急医療ひっ迫の指標として経時的評価を行い,それぞれの保健所の対応や地域医療体制から今後生じうる感染症パンデミックにおいて医療ひっ迫を回避する方策を提言することを目的とした。
方法 救急搬送困難事案件数はそれぞれの保健所圏域にある消防署から提供を受けた。「重点病床必要数」は日々の入院勧告数を累積し,ガイドラインの示す標準的入院期間の10日を経過した患者を減算した値と定義した。尼崎市とあかし保健所圏域では実際の日々の勧告入院中患者数が記録されていたので重点病床必要数の妥当性と後方支援病床運用の有効性の評価に用いた。
結果 重点医療機関で勧告から解除まで一貫して入院する方法を取った尼崎市保健所圏域では,確保病床数を大幅に超える重点病床必要数のピークが発生し,これに一致してCOVID-19救急搬送困難事案件数のピークを迎えた。後方支援病床を運用したあかし保健所圏域では病床ひっ迫と救急搬送困難事案を部分的ではあるが回避できた。一方,洲本保健所圏域では,平時の医療体制を継続することに尽力したため医療ひっ迫を最小化できた。また朝来保健所圏域では全病床数の約半数が精神科病院に有り,これらの患者は入院中の精神科病院で療養を継続したため圏域として医療ひっ迫に至らなかった。
結論 COVID-19のような重症急性呼吸器症候群(SARS)型のパンデミックでは,確保病床数を増やすだけでなく後方支援病床の運用,高齢者施設や精神科病院等での治療の自己完結が地域の医療ひっ迫を回避する手段として有効であると提言する。