抄録
ニッケル担持シリカ-アルミナ触媒 (Al2O3 42wt%) は芳香族炭化水素のハイドロアルキレーションに有効な触媒であり, この触媒の存在でベンゼンを水素添加するとシクロヘキシルベンゼンが高選択率で生成する1)。
本報はビフェニル生成を目的とするシクロヘキシルベンゼンの脱水素反応について合成的に研究したものである。さらに接触反応におよぼすアルキル基の影響について検討した。
反応は通常の常圧流通系固定床式反応装置によった。触媒は市販のクロミア-アルミナ (Cr2O3 12~13wt%, MgO 2~3wt%) およびそれをアルカリ処理したものを使用した。
シクロヘキシルベンゼン類は一般的にはベンゼンまたはアルキルベンゼンのシクロヘキサノールによるアルキル化で合成し, 特定のものについては所定の方法により単一物を合成した。これらのシクロヘキシルベンゼン類の性質は Table 1の通りである。反応にはこれらの炭化水素のベンゼン溶液 (25wt%濃度) を使用した。
シクロヘキシルベンゼンの脱水素反応について検討した結果はFigs. 1および2の通りであり, 適当な反応条件は450~500°C, 30~40g-cat•hr/mlで, この条件における転化率は70~80%で, 94~97%の選択率でビフェニルが得られた。反応時間の経過による触媒の活性低下はそれほど大きくなく, 反応開始4時間後にほぼ定常活性になった。また使用済触媒は550°Cで加熱することにより再生でき, 初期活性にもどった(Fig. 3)。
シクロヘキシルベンゼンの脱水素は段階的に進行し, 中間物として1-フェニルシクロヘキセンが確認された。
クロミア-アルミナ触媒によるシクロヘキシルアルキルベンゼンの接触反応においては主として脱水素反応と分解反応が同時におこり, それぞれの反応の起こる割合はシクロヘキシルアルキルベンゼンの構造によって異なる (Table 3)。すなわちm-またはp-位にアルキル基を有するシクロヘキシルアルキルベンゼンは脱水素反応が主としておこり, アルキルビフェニルが生成する。一方o-アルキル置換体の反応においては分解反応の割合が増大してくる。とくにシクロヘキシル-2,4,6-トリメチルベンゼンのように2個のオルト位がともにアルキル基で置換されている場合にはほとんど分解反応のみがおこり, 1,3,5-トリメチルベンゼンとシクロヘキセン (その異性化生成物であるメチルシクロペンテンを含む) が生成する。より温和な条件におけるシクロヘキシアルキルベンゼンの反応においては分解反応のおこる割合が増大する (Table 4)。したがって脱水素反応の方が温度依存性が大きいことがうかがえる。
アルカリ処理したクロミア-アルミナ触媒を使用することによりシクロヘキシルアルキルベンゼンの分解反応は抑制され, 選択的に脱水素反応がおこるようになる (Table 5), アルカリ処理触媒によるシクロヘキシル-m-キシレンとシクロヘキシルベンゼンの等モル混合物の反応においては, アルカリ量の増加とともにシクロヘキシル-m-キシレンの転化率およびその分解反応の割合が低下する。一方, シクロヘキシルベンゼンの転化率はアルカリ量の増加とともに増大する。
以上の結果から, クロミア-アルミナ触媒によるシクロヘキシルベンゼン類の反応挙動は次のように総括される。
クロミア-アルミナ触媒表面に脱水素活性点と分解活性点が互に接近して存在している。分解活性点とシクロヘキシルアルキルベンゼンの相互作用は分解活性点がある程度の酸性質をもっていること, 反応物のアルキルフェニル基の塩基性が大きいことから, 脱水素活性点と反応物の相互作用よりも大きく, シクロヘキシルベンゼン分解活性点の方により多く吸着される。この吸着がおこると隣接脱水素活性点は分解活性点に吸着された炭化水素分子におおわれ, その活性点への未吸着分子の吸着が不可能になる。したがってアルキル基の数の増加とともに, シクロヘキシルアルキルベンゼンの反応性および分解反応のおこる割合が増大する。また置換基のないシクロヘキシルベンゼンとの相対反応性もアルキル基の増加とともに大きくなる(Table 4)。
アルカリ添加クロミア-アルミナ触媒は酸性質の減少ないしは消失により分解点とシクロヘキシアルキルベンゼンの相互作用が弱くなる。その結果として脱水素活性点と炭化水素の相互作用が相対的に大きくなる。しかしシクロヘキシル-m-キシレンのようにオルト位にアルキル置換点があるものはその立体障害により, 脱水素活性点に吸着されにくい。したがってシクロヘキシルベンゼンとの混合物の反応においてはシクロヘキシルベンゼンの方がより多く脱水素される (Table 5)。