抄録
南極の成層圏で行われた大気の化学組成, 力学過程, 温度構造等の観測によって, この領域の大気化学過程は中低緯度でしばしば観測されるものとは著しく異なったものになっていることが明らかになった (たとえば, 春の大規模なオゾン消失)。極めて寒冷な大気が南極成層圏に発生することから, この時期に多量の粒子状物質 (Polar Stratospheric Clouds; PSCs) が発生する。このことが窒素酸化物の濃度を著しく低下させ, 結果としてクロロフルオロカーボン (フロン) が分解して生じた塩素酸化物によるオゾン破壊が著しく進行しやすい状況を作っていると考えられる。大気中のフロンの濃度が増加しつづけるなら, いずれ塩素酸化物の濃度が窒素酸化物の濃度を大幅に上回る状態が予想される。すなわち, 南極のオゾン消失は南極特有の大気エアロゾルの存在によって, 将来出現するであろう状況を示したといえる。