1993 年 84 巻 4 号 p. 694-699
高齢者の尿失禁の実態を把握するために奈良県下の8つの特別養護老人ホームに入所者している57歳から101歳までの748例 (男性183例, 女性565例) を対象に個人および施設に対するアンケート調査を行い, 以下の知見を得た. (1) 尿失禁例は422例 (56.4%) で, 男性94例 (51.4%), 女性330例 (58.4%) に認められた. (2) 尿失禁を有する割合は加齢に伴い増加する傾向にあった. (3) また, その割合と痴呆の程度や介助量あるいは移動能力との間に高い相関が認められた. (4) 施設医をはじめ医師の診察を受けたことがあるのは69例 (16.4%) で, そのうち薬物治療を受けていたのはわずか20例 (4.7%) であった. (5) 行動療法に積極的に取り組んでいる施設では入所者の尿失禁の割合は低かった.
以上より尿失禁を有する入所者の生活の質を改善するために介助力の増強のみならず, 泌尿器科医を含めた専門医の積極的な参加が必要であると考えられた.