2018 年 3 巻 1 号 p. 15-22
タンパク質が広範な働きを果たすためには,多様な化学的性質を備えている必要がある.翻訳後修飾は,タンパク質に化学的多様性を付与する重要な生命現象である.その中でもLys残基のアシル化は,正電荷を持つLys残基に,電荷の状態や大きさの異なる様々なアシル基が結合する点で,非常に興味深い.近年,質量分析技術の発達により,複数の新規アシル化修飾が発見されるとともに,これらの修飾が真核生物と原核生物の両方で,非常に多くのタンパク質に同定されるようになった.そこでまず,複雑なアシル化修飾システムの中で,生物が共通して持つ基本的な働きを理解するために,生体システムが単純な生物を研究対象とすることが有効と考えられる.本稿では,著者らがバクテリアをモデル生物として新規アシル化修飾の探索を行った結果に加えて,同定された修飾の働きを推定するのに有用であったタンパク質の立体構造情報の活用および計算科学の手法を紹介する.