急速な人口高齢化は経済や社会保障に次のような影響を与える。第1に急速な人口高齢化段階では社会保障費をまかなうための税・社会保険料が顕著に増加するので,現在の勤労世代の実質可処分(税引後)所得と個人消費の増加率は実質1人当りGNPの成長率を下回る。第2に年金制度が積立方式であれば,人口高齢化の初期段階では,人口の高齢化は貯蓄(年金基金の純増)を増加させる。第3に社会保障給付の増加と個人貯蓄率の低下との間にはタイム・ラグがあるため,社会保障が充実してきてもしばらくは高個人貯蓄率が続く。近年の日本経済において貯蓄が投資を相対的に上回り,内需不足と輸出圧力がみられる理由の一つは人口高齢化の過程に生ずる以上のような要因によって説明される。しかもこうした要因によって生ずる貯蓄投資ギャップは「神の見えざる手」によって調整されない。それゆえこの段階ではケインズ的政策が必要であるし,ケインズ派経済学も有効である。しかし,日本は1990年代には人口高齢化の次の段階に進み,日本経済も「日本病」に落ち入り,供給サイドに問題が生ずる可能性もある。そこで本稿は,日本経済が日本病に落ち入ることにならないようにする対応策をも示唆した。