抄録
本稿は縦断的研究方法として1つの後ろ向きヒト老衰コホート集団(日本人男女それぞれ1組)を確立し,生物学的な背景を有する寿命方程式(拡散モデル)に基づいて,その人口学的データを精緻に分析することによって,ヒト老化の人口学的理解を深めることを主眼としている。その結果の妥当性を検証するに際し,比較検討の対照としてVaupel(2010)によって予測された内容(3つの異なる,あるいは3つとも同じ老化速度のサブコホート集団からなる可能性)を基準に用いた。分析の結果,着目する元コホート集団は少なくとも3つのサブコホート集団から構成されていること,そのいずれの構成成分の老化速度もほぼ等しいことが示唆された。それら3成分の存在比率は,男女ともに長寿傾向が高い成分ほど高く,最も長寿化している成分が80%を超えて存在していることが明らかになった。この結果は,Vaupel の予測の2つの可能性の一方を強く支持するものの,彼によって採用されたモデルがGompertzモデルであることに伴って生じた幾つかの差異について議論した。