人口学研究
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研究ノート
2000年代の日本における婚外子-父親との同別居,社会経済的状況とその多様性-
岩澤 美帆
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2017 年 53 巻 p. 47-61

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抄録

婚姻関係にない父母のもとに生まれる婚外子は婚内子に比べ養育に必要な資源や投資が制限されやすく,その実態把握は次世代育成に関わる重要な関心事となる。しかしながら今日の欧米社会と異なり婚外子割合が低い日本では,標本調査による婚外子の捕捉が難しかった。2001年に始まった出生児を対象とした大規模調査である「21世紀出生児縦断調査」では約600ケースの婚外子を含むため,家庭環境や暮らし向き等の定量的な記述が可能である。本稿では米国や日本における婚外出生をめぐる議論や知見を整理した上で,上記調査データ6年分を二次利用し,婚外子の人口学的特徴,両親の属性,経済状況,母親や子供の人間関係,父親の育児参加等,子供の成長に影響を与える諸側面について,父親との同別居による違いおよび婚内子との比較の観点から明らかにした。 日本の婚外子は婚内子に比べて第1子が多いこと,都市部在住が多いこと,低体重児が多いこと,両親に喫煙者が多いこと,経済的に困窮している世帯が多いこと,母親のネットワークが狭いこと,子供の遊び相手の範囲が狭いこと,父親がいない世帯では母方祖父母との同居割合が高まるが,母親とその親との精神的結びつきは希薄である可能性などが明らかになった。0歳時点で父親と同居している割合は,8,9割とされる北欧社会,5割とされる米国に比べても低く,3人に1人以下であった。一方で半数の子供が6歳までに父親あるいは母親の新たなパートナーとの同居経験がある。別居の父親の状況や子供との関係については情報が限られるが,別居の父親からの支援は極めて限定的であることが推測される。質的な調査によってこれまでも日本の婚外子に対する社会的なサポートの必要性が指摘されてきたが,量的調査によっても,日本の婚外子とその家族が経済的に困窮し,家族の結びつきが弱く孤立しやすい状況にあることが確かめられた。一方で,継続的に父親と同居している婚外子や母親の社会経済的地位が高いケースも一定数含まれているほか,同居している婚外子の父親の育児参加は,婚内子の父親と変わらないなど,婚外子をめぐる環境が多様であることも明らかになった。

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© 2017 日本人口学会
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