日本家禽学会誌
Print ISSN : 0029-0254
鶏精子の温度による Reversible Inactivation に関する研究
I. Reversible Inactivation に及ぼす数種要因の影響
武田 晃
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1982 年 19 巻 1 号 p. 26-36

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抄録
鶏精子は塩溶液中においてその体温近くの40°C前後で運動を停止するがその後室温に戻すと運動を回復する, いわゆる温度による Reversible Inactivation という特性を示すと言われるが, その現象はつまびらかでなく, 原因や機構については解明されていない。そこでこれら究明のために本研究に着手した。本回は鶏精子と羊精子の比較ならびに鶏精子のそれに影響を及ぼす要因のいくつかについて知見を得たので報告する。
(1) KRP液で希釈または洗浄懸濁された鶏精子は40°Cにおいて運動を停止し室温 (20°C) に戻すと運動を回復 (Reversible Inactivation) したが, 羊精子ではこのような現象は認められず時間の経過と共に次第に運動が低下した。無希釈精液においても鶏精子は45°Cで Reversible Inactivation を示したが羊精子では認められなかった。50°Cにおいては鶏精子も羊精子も短時間内に死滅した。
(2) 数種の塩溶液で洗浄懸濁された鶏精子は40°Cにおいて, 塩溶液の種類によって差はあるが, いずれも短時間内に Reversible Inactivation を起した。洗浄を行なわずただ希釈しただけの精液では運動停止までの時間 (不動化所要時間) が延長した。また無希釈精液は40°Cでは120分後においてもなお活発な運動を続けた。
(3) 遠心洗浄された精子は40°Cにおいて Reversible Inactivation までの所要時間が短縮するが, これは遠心処理のためではなく洗浄処理の影響であった。
(4) 希釈または洗浄懸濁された精子に40°Cにおいてごく短時間内に Reversible Inactivation を起させる塩溶液は, 不動化所要時間はそれよりも延長するが, 30°Cにおいてもやはり Reversible Inactivation を起させた。
(5) 希釈度が高まるほど精子の運動性は低下し, また Reversible Inactivation までの時間も短縮した。
(6) 保存時間が長くなるほど精子の運動性は低下し, また Reversible Inactivation までの時間も短縮した。
(7) 空気およびO2中において40°Cで運動を停止した精子はO2の通気や振盪では運動を回復せず, 温度を室温に下げることによってはじめて運動を回復した。CO2中では運動停止後温度を下げるだけでは運動は回復せず, さらに空気を通気することが必要であった。
(8) 塩溶液により洗浄懸濁された精子液への血漿および卵白の添加は Reversible Inactivation までの時間を延長し, 特に精製卵アルブミンの添加時には延長が著しかった。一方燐酸緩衝液の添加は Reversible Inactivation までの時間を短縮した。
(9) 卵管各部のホモジネート上澄液の添加は Reversible Inactivation までの所要時間にはほとんど影響を及ぼさなかった。
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