抄録
鶏の脳内の放熱中枢と産熱中枢を探る目的でこの研究を行った。鶏は局所麻酔下で脳定位固定装置により, 単極電極を前脳に挿入して電気刺激を行い, 放熱および産熱行動を観察した。視索前野と視床下部の殆どの領域では刺激に反応して毎分当り呼吸ひん度 (RF) が多少とも増加した。しかし刺激によって起こる毎分当り最高の呼吸ひん度 (MRF) についてみると, 視索前野と前視床下部の内側部を刺激した時のMRFは内側後視床下部および視索前野-視床下部の外側部を刺激した場合のMRFよりも有意に多かった。とくに前交連の腹側で内側視床下部 (正中線から外側へ0.1から0.9mmまで) を刺激した場合には浅速呼吸が起こった。そのMRFは刺激前のRFの26.3±1.3に対し155±23であった。しかし前交連の腹側であっても正中線から外側へ1から2mmの間では刺激は浅速呼吸を起こすことはできなかった。視索前野-視床不部の外側部は刺激に対する増加の反応が微弱であった。前交連の後腹部で内側および外側視床下部 (正中線から外側へ0.7から3.0mmまで) を刺激するとふるえが起こった。また, そのほか視床底部および後視床下部の外側部 (正中線から外側へ0.7から3.5mmまで) を刺激すると呼吸の完全な抑制が起こった。
このような結果から鶏の前脳における放熱中枢は視索前野-前視床下部において前交連の腹内側部にあり, 産熱中枢は内側および外側視床下部で前交連の後腹部に位置するように思われる。