抄録
排卵周期中の家禽の卵巣にはさまざまな大きさの卵胞が混在しているが,1日1個の排卵は最大卵胞(F1)からのみおこなわれる。F1はLHに反応してプロゲステロンを生成分泌することが知られているが,なぜF1のみがLHに反応し,その他の卵胞は反応しないのだろうか。本研究はこの疑問に答えるために,LHの影響を受ける前,すなわちF1の排卵予定時刻の9~1%時間前にウズラを殺し,大きい順に3個の卵胞(F1, F2, F3)を摘出してそれらのプロゲステロン生合成能をインビトロで比較検討した。
まず卵胞からの卵黄のみを取り除いた卵胞壁をクレブス•リンガー•HEPES培養液中で40度,3時間インキュベートし,その後組織を培養液とともにホモゲナイズしてエーテルでプロゲステロンを抽出し,ラジオイムノアッセイで定量した。その結果,培養液に2μg/mlの羊LHまたは1mMのジブチリルサイクリックAMPを添加すると,F1の卵胞壁のプロゲステロン生成量は顕著に増加した。一方F2やF3から得た卵胞壁ではこのような効果はみられず,プロゲステロン量はインキュベーション前とかわらなかった。卵胞壁から顆粒膜のみを単離し同様の実験をおこない,プロゲステロン生成量を卵胞あたりで比較したところ,F1では卵胞壁を用いた場合と結果は全く同じで,LHやジブチリルサイクリックAMPに反応してプロゲステロンを生成するのは顆粒膜であることがわかった。しかし卵胞壁を用いた場合にはプロゲステロンの生成が認められなかったF2やF3では,顆粒膜細胞を用いるとプロゲステロンの生成が認められるようになった。ただしこの場合は,単に顆粒膜細胞を培養液中でインキュベートするだけでプロゲステロンの生成がおこり,LHやジブチリルサイクリックAMPを添加しても効果はなかった。
以上の結果は,F2やF3の穎粒膜細胞はプロゲステロンを生成しているのだが,卵胞壁のもう一つの構成因子である卵胞膜がそれを代謝してしまうためにこれらの卵胞ではあたかもプロゲステロンが生成されていないようにみえるのであろう事を強く示唆している。そこでF1,F2,F3の卵胞膜のホモジネートをNADPHの存在下でプロゲステロンとインキュベートすることによって代謝能を調べたところ,確かにF2やF3の卵胞膜はプロゲステロン代謝能がF1よりも高いことが明らかとなった。
F2やF3で生成されたプロゲステロンはおそらく卵胞膜でテストステロンやエストラジオールに代謝され,F1ではこれらのステロイドホルモンへの代謝が少いためにプロゲステロンのままで放出されていることが推察された。