日本家禽学会誌
Print ISSN : 0029-0254
ニホンウズラにおける,hyomandibular furrowの閉鎖異常に由来する頭部骨格異常
都築 政起若杉 昇
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1988 年 25 巻 4 号 p. 207-217

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抄録

ニホンウズラET系統の特微は,耳房の出現と耳口異常である。この変異形質は発生初期におけるhyomandibular furrowの閉鎖異常に起因すること,および,この閉鎖異常は常染色体性の単一劣性遺伝子によって支配されていることが明らかにされ,遺伝子記号hfd (hyomandibular furrow closure defect)が提唱されている(別報)。ET系統はhfd/hfdの遺伝子型に固定しているが,hfd遺伝子の孵卵5日における浸透度は91%であり,外観的に正常な個体も観察される。本研究では,ET系統の孵卵15日胚を用いて頭部骨格の異常を調査すると共に,骨格異常をkey characterとして遺伝様式を確認した。アリザリンレッドSによる骨染色の結果,mandibular archに由来する下顎骨,およびそれに隣接する基底傍蝶形骨,方形頬骨,その他の骨の形態異常がET系統に特異的に認められた。それぞれの骨の異常出現頻度は,53% (101/191), 74% (141/191), 34% (64/191),および13% (25/191)であり,異常の程度は個体により様々であった。一方,hyoid archに起源を有する耳小骨に異常はみられなかった。
骨格各部の形態異常は以下のようであった。
1. 下顎骨下顎骨は,mandibular archに由来するメッケル軟骨からつくられる。下顎骨後端部は,角骨,上角骨,関節骨および前関節骨の4つの骨から成るが、孵卵15日胚においては,これらの骨は明瞭に区別できた。角骨と上角骨は隣接して伸長し,正常胚では,その後端は方形骨の関節突起よりもやや後方に達し,外側へとわずかに屈曲していた。軽度の異常胚では,外側への屈曲がみられず,重度の異常胚では,先端部が欠損すると共に,変形し棍棒状を呈した。関節骨は角骨の内側に位置しており,正常15日胚では円錐台形であったが,異常胚では,変形あるいは消失が観察された。前関節骨は関節骨の前方に位置する骨であり,異常胚では変形がみられた。
2. 基底傍蝶形骨頭蓋底部を構成する平板状の骨であり,下顎骨後端部と隣接する。異常胚では,この骨の後方外側縁の変形および前側部分の欠損が認められた。
3. 方形頬骨この骨は,下顎骨と平行して伸長し,その後端は方形骨の関節突起に接合し,下方にわずかに屈曲している。異常胚においては,屈曲のみられないもの,あるいは,後端部が欠損したものが観察された。
4. その他の異常
側頭骨鱗部の変形,方形骨の関節突起の未発達,および基底傍蝶形骨の近ぐに位置する骨片が低頻度で発見された。
以上の異常の内少なくとも1つを有するものを異常胚と判定したとき,ET系統の191例の15日胚における異常出現頻度は87%であった。孵卵15日胚における骨異常の有無を基準にして遺伝分析を行った。ET系統と対照系統との正逆両交配から得られたF1世代183個体は全て正常であり,F2世代においては約3:1,戻し交配世代においては約1:1に,正常胚と異常胚の分離がみられ,骨異常は,常染色体性の単一劣性遺伝子によって支配されていると考えられた。この結果は,hyomandibular furrowの閉鎖異常を基準にした遺伝分析の結果に一致しており,mandibular archに生じた異常が根本の異常であることが確認された。
以上の観察結果を総合し,発生過程におけるhfd遺伝子の作用発現,頭部骨格の異常,耳口異常,および耳房形成の相互関係について論議した。

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