抄録
着地型観光は、地域が主導する観光を指す概念として生まれたが、その定義の曖昧さがいまだに指摘され、批判的な研究も増えてきている。昨今着地型観光は観光まちづくりへの貢献が期待されているが、一度概念を整理して再解釈する必要がある。その中で観光目的地を事業の拠点とする旅行会社(観光地域旅行会社:Tourism Enterprises based on Destination (TED))は、既存の着地型観光研究ではあまり取り上げられなかった。しかしTEDは、経済活動や雇用創出、環境容量など持続可能な発展の視点から地域の重要な利害関係者である。そこで本研究は、先行研究から着地型観光の概念整理をした上で、TEDが着地型観光を実現するために果たす役割について事例から明らかにし、探索的研究として着地型観光の新しい概念を提起することを目的とする。事例として島根県隠岐を拠点とする旅行会社である隠岐旅工舎を取り上げ、経営者に半構造化インタビューを行った。その結果、TEDが地域貢献の理念を掲げ、発地の旅行会社では活用し得ないソーシャル・キャピタルを活用し商品企画を行い、事業を継続していることが分かった。