東日本大震災・原子力災害で東日本の農耕地は甚大な被害を受けた。12 年が経過し,福島県浜通り地域では特色ある米を生産し,活気ある市場を回復・拡大させようとする取り組みがある。本研究では2 地域で生産される米に着目し,品質・食味特性を作物学的に明確化することを目的とした。南相馬市,飯舘村の水田で栽培された「天のつぶ」,「里山のつぶ」の玄米・白米を対象とした。食味関連形質を米粒食味計で計測した。白米を炊飯後,炊飯米を凍結乾燥し表面および割断面を走査電子顕微鏡で観察した。調査対象水田の「天のつぶ」および「里山のつぶ」の玄米・白米のタンパク質含有率およびアミロース含有率は高評価ではなかった。この結果は限定的,事例的であり,品種特性や栽培管理方法の影響について平準化された条件・長い栽培年次での評価が必要である。炊飯米の微細構造は,表面から表層部分で糊化の進展が認められた。また,近年,日本で栽培されている他の「良食味」米と同様,中心部や中間部で糊化が進まない様相が顕著であった。したがって,これらの米は従来の米とは異なる新たな「良食味」米のトレンドであると考えられた。加えて,「天のつぶ」は倒伏抵抗性が強いことが,「里山のつぶ」では収量性が高く冷害に強いことが特徴である。このような新たな「良食味」米のトレンドや栽培特性は,浜通り地域における水稲栽培・米生産と市場拡大を加速すると考えられる。