家畜繁殖研究會誌
Print ISSN : 0453-0551
山羊精液申の卵黄凝固酵素に関する研究
VIII. 電気刺戟採取精液ならびに人工膣による半枯渇採取精液中の酵素量
入谷 明西川 義正
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1964 年 10 巻 2 号 p. 57-62

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抄録

山羊精液中の卵黄凝固酵素の凝固強度に影響を及ぼす諸条件のうち精液の採取条件として,電気刺戟採取精液について人工膣法によるものと比較された。また精液を人工膣法によって約1時間内に7~8回連続採取した際の凝固強度の変動を検討した。なお,これら両者の実験では凝固強度以外に精液の一般性状,ならびに精漿中の果糖,クエン酸,蛋白濃度も同時に測定し結果の検討に参照された。
前者の実験には3頭,後者には2頭のそれぞれ正常なザーネン種山羊を使用し,両実験ともに1961~1962年の繁殖季節中に行われた。主なる結果はつぎのごとくであった。
A.電気刺戟採取精液の性状と凝固強度電気刺戟採取精液のうち精子をほとんど含まないか,きわめて精子濃度の低い分劃25例(精子濃度0~8.2×108/ml,平均3.4±2.7×108/ml)と人工膣法による採取精液18例について比較された。
1.電気射精液のpHは濾紙法(B.T.B.)で6.8~8.8,平均7.9±0.6で人工膣法精液の6.3±0.1よりもかなり高かった。
2.電気射精液精漿中の蛋白,果糖,クエン酸濃度はそれぞれ1.8±1.Omg/0.1ml,170.6±145.7mg/d1,246.1±166.Omg/d1で,これに対し人工膣法精液ではそれぞれ7.1±1.1mg/0.1ml,1242.7±16.Omg/dl,794.6±153.3mg/d1であって電気射精液の方がいずれの成分についても著しく低濃度であった。
3.電気射精液精漿の凝固強度は41.6±10.Omg/0.1mlで,人工膣法精液精漿の凝固強度29.5±4.3mg/0.1mlにくらべてかなり高く,また比活性度で比較すると,それぞれ29.3±14.5mg/mg蛋白,4.6±1.2mg/ml蛋白となり,電気射精液の方が約6倍程度も高かった。
4.電気射精液精漿の濾紙電気泳動像から,比活性度の高い精漿では低いものにおけるよりも移動度の遅い蛋白の占める割合がはるかに大きく,また比活性度の高い精漿を射出した分劃では精子,果糖,クエン酸,蛋白などの濃度が著しく低かった。
以上の結果から低電圧で射出される精子をほとんど含まない分劃では精のう液成分は少く,尿道球腺液が多く含まれ,凝固酵素の純度の高いことが知られた。
B.連続採取精液(1時間内7~8回採取)の性状と凝固強度1.第1回目の採取精液と7~8回目の採取精液についてそれぞれ4~6例の平均値で比較してみると,精液量はそれぞれ0.91ml,0.31ml,精子濃度は34.8×108/ml,6.2×108/mlであって両者ともに7~8回目では著しく減少した。
2.主として精のう成分を考えられる果糖,クエン酸および蛋白の濃度を1回目と7~8回目の精液について比較してみると果糖は3~4回目までわずかに上昇し,その後1頭の例では漸減して最初の約1/2になり,他の例では大きな低下はみられなかった。クエン酸は1頭の例ではかなり減少したが,他の例ではほとんど変化はみられなかった。蛋白は2頭ともに4~5回目以降にわずかに低下した。
3.尿道球腺の分泌液に由来する凝固酵素の凝固強度は1回目の射精液で平均11.60mg/0.1mlであって,4~5回目まで急激に直線的に増大し,その後ほぼ一定値を示し7~8回目の採取精液でも51.43mg/0.1mlであった。
以上のことから精液を短時間内に連続採取した場合,精のうと尿道球腺では分泌の様相がかなり異ることが知られる。

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