抄録
【目的】ウシにおいて, 子宮由来の prostaglandin F2α (PGF) は黄体の退行を誘導することが知られているが, 培養した黄体細胞に PGF を添加しても progesterone (P4) 分泌が減少しないことから, PGF の黄体退行作用は直接的ではないことが示唆されている。ウシにおいて PGF 投与後血中一酸化窒素 (NO) 濃度が増加すること, 黄体内血流量の一過性の増加が見られること, また NO が培養ウシ黄体細胞の P4 分泌量を減少させ, さらにアポトーシスをも誘導することから, ウシの黄体退行機構において NO が重要な役割を果たすことが示唆されている。本研究では子宮由来の PGF は, ウシ由来血管内皮細胞 (LEC) の NO 合成を刺激し, NO を介して黄体退行を誘発するという仮説を証明する目的で, LEC における PGF-receptor (FPr) の発現を検討するとともに, NO 合成酵素である inducible nitric oxide synthase (iNOS) および endothelial nitric oxide synthase (eNOS) の mRNA, protein 発現に及ぼすPGF の影響を調べた。【方法】ウシ中期黄体より単離して得た細胞が LEC であることを Factor VIII (von Willebrand factor) 抗体を用いて確認した。培養 LEC における FPr mRNA 発現を RT-PCR 法, protein 発現を Werstern blot 法で, さらにウシ黄体組織における FPr の局在ならびに培養 LEC における FPr 発現を免疫細胞化学的に検討した。培養ウシ LEC の iNOS および eNOS の mRNA ならびに protein 発現に及ぼす PGF (1 µM) の影響を調べた。【結果】黄体組織切片における FPr 抗体に対する陽性反応は, 黄体細胞だけでなく血管内皮細胞にも認められ, また培養 LEC にも FPr の発現していることが明らかになった。PGF は培養 LEC の eNOS mRNA および protein の発現に影響を及ぼさなかったが, iNOS mRNA および protein 発現を有意に増加させた (P<0.05)。以上の結果から, 黄体退行時に子宮から分泌される PGF は LEC の iNOS 発現を増加させることにより NO 合成を刺激し, 黄体退行を促進する可能性が示めされた。