【目的】未受精卵をレシピエント卵細胞として作製された体細胞クローン胚は、卵細胞質内で起こる核リプログラミングが不完全ため個体への発生能が低く、その原因の一つとして未受精卵子に含まれている核リプログラミング因子の量的問題が推測されるが不明な点が多い。またES細胞と体細胞の融合法では、ES細胞に予めNANOGを強発現することでその効率が向上することやiPS細胞の誘導においてもそれぞれの核リプログラミング因子の量的バランスが重要であることが報告されている。そこで本研究では、予め既知の核リプログラミング因子をブタ未受精卵に人為的に強発現させ、その能力が増強させられるかブタ体細胞核移植卵の体外発生能により検討した。【方法】屠畜場由来体外成熟培養ブタ卵子は染色体を除去後、OCT4、SOX2、KLF4、C-MYC、NANOG、GADD45A、TCTPなどの核リプログラミング関連因子のRNA(0.1-10ug/ug)を卵細胞質へ注入したものをレシピエント卵細胞とした。ブタ胎児繊維芽細胞をドナー細胞とし電気融合法により核移植卵を作製後、ヒストンメチル化抗体を用いた免疫染色、8日間培養後の胚盤胞への体外発生率によりその影響を調べた。【結果】各遺伝子のRNAは、注入後3時間でそのタンパク質の発現が確認された。核移植後の核の変化は、強発現卵を用いた場合でも対照区と同様に高メチル化状態であった。高濃度のRNAを注入した強制発現卵由来の核移植卵の発生能は、遺伝子の種類に関わらず4細胞期で停止した。低濃度のRNAを注入した強発現卵の場合でも、対照区としてGFPを注入した場合と比較して発生率を向上させることはできなかった。これらの結果より、核リプログラミング因子を予め強発現した未受精卵をレシピエント卵細胞として体細胞核移植に用いても、その能力を増強させることはできず、エピジェネティックな変化も起こさないことから卵細胞質内で起こる不完全な核リプログラミングは既知の核リプログラミング因子の量的問題ではないことが明らかとなった。