抄録
【目的】家畜の精巣断片を免疫不全マウスの皮下へと移植することで機能的な精子を産生する手法が確立されているが、その精子産生効率は低く、実用化レベルには至っていない。哺乳類の精巣では、精原幹細胞(Spermatogonial stem cells; SSCs)は、精細管の基底部で神経栄養因子(Glial cell line derived neurotrophic factor; GDNF)やその受容体 (GDNF receptor alpha 1; GFRα1)の制御下で自己複製を行い、恒常的に維持されている。一方、生体内の雄性生殖腺は、精細管、精巣網、精巣輸出管、精巣上体管が整列した複雑な管構造をとり、精巣上体管は水分を活発に吸収して管腔内に一方向性の微小水流(Flow)を生じさせる。Flowは精子の輸送や環境の維持に関わると考えられているが、詳細な機能は不明である。本研究では、Flowの重要性に着目した新たな皮下移植法を確立し、産生された精子の個体への発生能を確認するとともに、本手法の有用性をSSCs維持の観点から検証することを目的とした。
【方法】マウス(胎齢14.5日)の精巣-精巣上体を切り出し、精巣と精巣上体が繋がった状態(ep+)、および精巣上体を外した状態(ep-)で免疫不全マウスの皮下に移植した。精巣は8-15週間後に採材し、精子産生能の解析、精子の顕微授精(Intracytoplasmic sperm injection; ICSI)による発生能の確認を行った。また、SSCs維持能の確認としてGDNFおよびGFRα1の発現を組織学的に解析した。
【結果】精子産生効率はep-群が2.1%であったのに対しep+群は38.6 %と高く、ep+群での精子産生は移植から少なくとも15週間は維持された。また、ep+群では精巣上体精子の貯留が観察され、ICSIによる正常な個体発生が確認された。さらに、ep+群では野生型と同様のGDNFとGFRα1の発現が観察され、SSCsの恒常的な維持が示唆された。