抄録
【目的】ニホンウズラは,卵肉生産用の家禽として重要であるのみならず,実験動物としても広く利用されている。しかし,ニホンウズラの配偶子の凍結保存法は未だ樹立しておらず,遺伝資源を安定的に保存することができない。我々はこれまで,配偶子の前駆細胞である始原生殖細胞の凍結保存によるニワトリ遺伝資源の保存に取り組んできた。本研究では,ニホンウズラの始原生殖細胞を凍結保存し,移植による凍結細胞由来の産仔作出を試みた。【方法】約2日間孵卵したドッテッド・ホワイト系統ウズラ胚より採血後,密度勾配法により始原生殖細胞を分離し,液体窒素中にて77~185日間凍結保存した。凍結融解後における始原生殖細胞の回収率および生存率を解析した。続いて,凍結融解した始原生殖細胞の生殖巣移住能および配偶子分化能を解析するため,約2日間孵卵した野生型ウズラ胚の血流中に移植した。【結果】凍結融解後における始原生殖細胞の回収率は47.0±0.8%であった。凍結融解後における始原生殖細胞の生存率は85.5±1.9%であり,非凍結区(95.1±0.9%)と比べて有意に低かった(P<0.05)。移植3日目に凍結融解後の始原生殖細胞を移植した宿主胚の生殖巣においてドナー細胞が観察されたが,その数は非凍結区の48.5%であった。凍結融解後の始原生殖細胞を移植した宿主胚27個のうち19個が孵化し,14羽が性成熟した。これらのうち3羽(メス1羽とオス2羽)から凍結細胞由来の産仔が得られ,その産出効率は18.3±16.9%であった。これらの結果から,凍結保存したニホンウズラ始原生殖細胞は,移植後に宿主胚生殖巣へ移住,生着し,さらには機能的な配偶子へ分化することが示された。本法は,ニホンウズラ遺伝資源の恒久的な保存に資するものと期待される。