日本繁殖生物学会 講演要旨集
第106回日本繁殖生物学会大会
セッションID: P-79
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卵・受精
マウス初期胚におけるヒストンメチル化酵素Smyd3の役割について
*野澤 佑介鈴木 伸之介塚本 智史金子 武人今井 裕南 直治郎
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抄録

【目的】マウス初期胚では受精後卵母細胞に蓄えられた母性因子に依存し胚自身のゲノムからの活性化(ZGA)が起き,転写が開始される。この時期にヒストン修飾酵素によってヒストン修飾が劇的に変化することから,ヒストン修飾は胚性ゲノムの活性化にとって重要と考えられる。マウスH3K4メチル化酵素Mll2を卵母細胞特異的に欠損させると,ZGAが損なわれ4細胞期までに発生が停止することが明らかにされている。ヒストンメチル化酵素Smyd3 (SET and MYND domain containing protein 3)はH3K4,H4K5,H4K20のメチル化を行っており,ZGAに関与していることが考えられるが,初期胚におけるSmyd3の解析は行われていない。そこで本実験ではマウス初期胚におけるSmyd3の役割について検討を行った。【方法】本研究では後期1細胞期,後期2細胞期,4細胞期,8細胞期,桑実期および胚盤胞期におけるSmyd3の発現量を定量的PCRによって比較検討した。また初期胚におけるSmyd3を抑制するためにSmyd3を標的とするsiRNAを受精後3時間の1細胞期胚に顕微注入し,受精後36,48,60,84,96,108時間における胚の形態および発生率について観察し,同様の時期に抗Smyd3抗体,抗H3K4me3抗体,抗Oct4抗体および抗Cdx2抗体により免疫蛍光染色を行い,それぞれのタンパク質の局在について検討した。【結果】対照区の胚と比べSmyd3抑制胚の形態,胚盤胞期胚までの発生率,脱出胚盤胞率に有意な差は見られなかった。しかしながら,免疫染色の結果,対照区の胚と比べSmyd3抑制胚の胚盤胞期胚において多能性の維持に必要なOct4と胎盤形成に必要なCdx2の発現の減少が確認された。また定量的PCRの結果,Smyd3抑制胚において4細胞期から発現を開始するOct4が有意に減少していたことから,Smyd3がOct4の胚性での転写開始に関与していることが示唆された。またSmyd3抑制胚では8細胞期からCdx2も有意に減少していたことから,Smyd3はCdx2の発現の制御にも関与していることが示唆された。以上の結果より,Smyd3はマウス初期胚の分化に重要な役割を持つのではないかと考えられた。

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© 2013 日本繁殖生物学会
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