主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第111回日本繁殖生物学会大会
開催地: 信州大学繊維学部
開催日: 2018/09/12 - 2018/09/16
【目的】哺乳動物胚は桑実期から胚盤胞期にかけて内部細胞塊(ICM)と栄養外胚葉(TE)へ分化する。この過程において接触阻害を担うシグナル伝達系Hippo経路が重要な役割を果たすことがマウス胚で知られている。Hippo経路のエフェクターである転写コアクチベーターYAPとTAZが転写因子TEAD4と協調することにより,TEマーカーであるCdx2の転写を制御する。ウシ胚でもHippo経路がICM/TE分化に関与するといわれているが,詳細はわかっていない。さらに,哺乳類初期胚におけるYAPの解析は多いものの,YAPのパラログであるTAZについての知見は乏しい。そこで本研究では,ウシ初期胚におけるTAZ発現の役割を調べることを目的とした。【方法】食肉検査場由来のウシ卵巣から卵丘細胞−卵母細胞複合体を吸引採取し,定法に従い体外成熟,体外受精および体外培養に供しウシ胚を作出した。定量PCR,免疫染色により,卵母細胞および初期胚におけるTAZ遺伝子およびタンパク質の発現動態を調べた。続いて,TAZを標的としたshRNA発現ベクターを1細胞期胚に顕微注入しTAZ発現抑制(KD)胚を作出した。また,定量PCRおよび免疫染色により胚盤胞期におけるTEAD4やCDX2などのICM/TE分化関連遺伝子のmRNA発現,およびCDX2タンパク質のシグナル強度の変化を調べた。【結果】ウシ初期胚発生過程においてTAZ mRNA発現レベルは16細胞期で最も高く,TAZタンパク質発現は,16細胞期以降で核内での強いシグナルが観察された。TAZ KD胚の胚盤胞期までの発生率は,コントロールと比較し有意差は認められなかった。TEAD4およびCDX2発現レベルはコントロールと比較しTAZ KD胚で有意に低下し,CDX2タンパク質もシグナルの減衰が認められた。以上の結果から,ウシ初期胚発生におけるTAZ遺伝子およびタンパク質発現動態および,TAZ遺伝子発現抑制が分化関連遺伝子の発現に影響を及ぼすことが明らかとなった。