日本繁殖生物学会 講演要旨集
第111回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-27
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生殖工学
胚盤胞期のMAPK阻害による胚盤葉上層細胞数の増殖が個体への発生能に及ぼす影響
*谷 哲弥
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抄録

【目的】従来,胚盤胞の質の評価は個体への発生能以外にも内部細胞塊および胚盤葉上層の細胞数,またはアポトーシスを起こした細胞数などの計測が用いられている。近年,胚盤胞期をMAPK阻害剤で処理すると内部細胞塊の胚盤葉下層への分化が抑制され将来胎児になる未分化な胚盤葉上層細胞数の増殖が誘導されることで胚の質が向上すると考えられているが胚移植後の個体への発生能についての検討はされていない。そこで本研究では,胚盤胞のMAPK阻害剤処理による胚盤葉上層の細胞数の増加が個体への発生能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】実験にはICR系の雌マウスから採取した受精卵とウシ体外受精卵を用いて,桑実胚前から胚盤胞期にかけてMAPK阻害剤であるPD0325901を1uM培養液に添加し,胚盤胞期での免疫染色と遺伝子発現解析により評価した。胚盤葉上層の細胞数は,NANOG陽性細胞を胚盤葉下層の細胞数はSOX2陽性細胞から胚盤葉上層の細胞数の差から算出した。一部,受配雌へ移植して受胎率および個体への発生能を検討した。【結果】MAPK阻害剤処理したマウスとウシの胚盤胞の胚盤葉上層の細胞数は,無処理区と比較して有意に増加し胚盤葉下層の細胞数は有意に低下した。遺伝子発現解析においても, 胚盤葉上層のマーカーであるNANOGやFGF4の発現は上昇し胚盤葉下層のマーカーであるGATA6やSOX17の発現は低下した。マウス胚盤胞の胚移植後の受胎率および出生率は,対照区と比較して有意に低下した。ウシ胚盤胞の受胎率においても,受胎率が有意に低下した。これらの結果から,マウスとウシの胚盤胞形成時におけるMAPK阻害により胚盤葉上層と下層の不均衡が生じた。また,これらの胚盤胞は,個体への発生能を低下させることが示された。このことから,胚盤胞期での胚盤葉上層細胞数の増殖誘導だけでは胚の質を向上させず,胚盤葉上層と下層の細胞数のバランスが重要であるることを示唆している。

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