日本繁殖生物学会 講演要旨集
第112回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-8
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生殖工学
マウス受精卵のゲノム編集におけるHypaCas9の利用可能性の検討
*池田 有沙藤井 渉杉浦 幸二内藤 邦彦
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抄録

【目的】CRISPR/Casシステムを利用した受精卵のゲノム編集によって簡便かつ短期間に遺伝子改変動物の作出が可能となりつつあるが,標的配列と似た配列にも変異を導入しうる,いわゆるオフターゲット作用が課題となっている。本研究では,培養細胞で標的特異性の向上が報告されている改良型Cas9(HypaCas9)のマウス受精卵への応用可能性を検討した。【方法】既報でオフターゲット作用が認められているRosa26を標的としたgRNAを利用して,C57BL/6由来受精卵で野生型(WT)Cas9およびHypaCas9の変異導入率を比較した。また,HypaCas9が一塩基多型(SNP)を識別して標的配列を認識できるか検討するために,C57BL/6とDBA/2の交雑で得られた受精卵に対して,Cdx2のSNP座位に設計したgRNAと共導入し,アリル特異的な変異導入を試みた。さらに,ホモ欠損で胚性致死となるCdk1を標的として,SNPを介したヘテロ欠損個体の作製が可能か検討した。【結果】Rosa26標的座位では,WTCas9,HypaCas9のいずれも100%の変異導入率を示した一方で,gRNAと1塩基あるいは2塩基のミスマッチを有するオフターゲット座位ではWTCas9による変異導入が認められたが,HypaCas9では変異導入が強く抑制された。また,HypaCas9はCdx2標的座位のSNPを識別し,標的アリル特異的な変異導入が認められた。これらの結果から,HypaCas9は受精卵において1塩基の精度で標的配列を認識できることが示唆された。さらに,Cdk1のヘテロ変異導入を試みた結果,35匹の生存産仔が得られ,22匹で標的アリルへの変異導入が認められ,欠損アリルの次世代への伝達も認められた。以上より,受精卵のゲノム編集において,HypaCas9を利用することで標的認識の精度が向上し,オフターゲット作用の低減やアリル特異的な変異導入に有用であることが明らかとなった。

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© 2019 日本繁殖生物学会
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