2007 年 47 巻 1 号 p. 43-64
中国ワカメ産業の日本市場への参入は韓国に比較して後発であった。しかし,近年その輸出拡大は著しく1996年には韓国を越え,今や日本市場に供給されるワカメの50%以上が中国産となっている。
これまで中国漁業の競争力に関しては,低賃金によるコスト競争力の強さが強調されてきた。確かに中国産ワカメにおいても,低賃金は価格競争力を形成する要因の一つであると考えられる。また,その他にも,産・官・学の連携を背景とした中国独特の安定生産と品質改善に関する技術開発への努力,日本の輸入業者の積極的な技術指導と直接投資などが一般的な外部要因として考えられよう。しかし個別経営組織における内部分析の視点で見た場合,中国ワカメ養殖産業の経営組織はどのように評価されるのであろうか。また,それは企業の競争力とどのような関係にあるのであろうか。それが本報告の問題意識である。
そこで,本研究では産業組織の視点に立ち,中国の対日ワカメ輸出産業を担う諸企業の経営形態や経営組織,体制・制度について実態調査を行った。調査はワカメ養殖・加工業の主産地である大連で行い,国営企業経営,集団企業経営,株式会社経営,外資企業経営という4つの異なる経営類型の個別事例を分析した。分析の焦点は,それぞれの経営組織の実態と競争力の源泉の解明である。
実態調査の結果,①1984年の国営企業改革により,国営企業では「生産請負制度の導入」と「所有権と経営権の分離」が導入されたこと,②株式会社制度の拡大が進み,その結果企業職員の積極性がアップし,経営効率の向上が図られたこと,③中国では多くの加工工場が自社の養殖場を持ち原料を内部調達するシステムを持っていること,すなわち生産と加工の垂直統合化が進んでいること,④外資企業は海面使用が制限され養殖場を持てないため,原料は契約している養殖場から購入するというネットワーク型垂直統合を進めていること,などが明らかになった。
中国のワカメ輸出産業は安価な労働コストなど恵まれた外部要因のみを利用して競争力を確保しているだけではない。そこでは経営組織の近代化や先端的な垂直統合形態を図ることによる企業組織としての効率性の追求が急速に図られており,こうした視点からの経営組織戦略もまた中国ワカメ産業の競争力を高めている要因であると思われる。