本稿では,伝統漁業及びそれを活用した観光事業に対する公的資金投入の在り方について,外部経済効果の観点から,岐阜長良川鵜飼を事例に検討を行った。第1に,鵜飼は漁業生産のみでは存立し得ず,その観光資源としての側面を活用した観覧船事業からの収入を得ているものの,乗船客数の減少に伴う採算割れが生じており,公的支援によって存続を可能としている状況を明らかにした。第2に,鵜飼事業が有している様々な機能の発現メカニズムについて整理し,発揮される多くの効果は外部経済効果となっており,公的資金の投入を巡っては,それら外部経済効果を意思決定材料に組み込む必要性があることを指摘した。第3に,岐阜長良川鵜飼のレクリエーション的側面に着目し,トラベルコスト法を用いて岸辺からの見学者が享受している外部経済効果の経済評価を行い,約 3,164万円という結果を得た。
この数値のみを見る限りでは,鵜飼事業が十分な公共サービスを提供しているとは言い難いが,本稿で評価を行ったのは,鵜飼事業が発揮している効果の一部であるため,より広範に公共サービスの評価を行った上で,事業のあり方について検討する必要性が示唆される。今後は,鵜飼及び観覧船事業の評価に多様な外部経済効果を組み込みながら,より実効性のある公的支援の在り方を検討すると共に,観光事業の質向上を実現し,それを伝統漁業の存続と十全な機能の発揮や自立的な観光事業の存立に繋げていくことが求められよう。