地域漁業研究
Online ISSN : 2435-712X
Print ISSN : 1342-7857
49 巻, 1 号
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論文
  • 小型機船底曳網漁業並びに瀬戸内海機船船曳網漁業を中心に
    田中 史朗
    2008 年 49 巻 1 号 p. 1-21
    発行日: 2008/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は沿岸海域でも,日本を代表する閉鎖性水域である瀬戸内海に焦点を当てて,漁業者による自主的な漁業管理組織の広域的ネットワーク化の現状と課題,さらにはそのための合意形成(ルール作り)がどのようにされているのか,それが永続性を持つにはどのような条件が必要なのかについて,小型機船底曳網漁業および瀬戸内海機船船曳網漁業を事例に取り上げて考察したものである。

    課題接近のために,以下の視点から分析を試みた。第1に,両漁業の漁業管理の地域的な広がりとその到達レベルを,第2に,行政・系統組織がどのような役割を果たしているのかを,第3に,広域的漁業管理制度を構築するにあたっての障害が何かを明らかにしたい。

    広域的漁業管理制度を構築する上で,また,管理効果をあげるために必要な条件を事例分析に基づいて抽出してみると以下のようになる。①漁業者相互の人的交流とネットワーク作り,②漁業者の間に漁業管理意識が根付いているか否か(漁業者への啓蒙活動),③リーダーの育成とそれと密接不可分な関係である組織の司令塔の創設(管理主体の明確化),④管理目標・内容・基準の策定とルール違反に対する罰則の適用,⑤管理効果の検証と評価,⑥組織の目標を高く掲げ,漁業管理に取り組む漁業者のモチベーションを高める等の点が指摘できる。

  • 東村 玲子
    2008 年 49 巻 1 号 p. 23-41
    発行日: 2008/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス

    2005年の世界のズワイガニ漁獲量は16.6万トンで,そのうちカナダの漁獲量が57.4%を占めている。そして,カナダはそのズワイガニのほぼ全量を加工・冷凍の上で輸出している。一方,世界のズワイガニの消費量は,日本と米国が約48%ずつと二分している。ズワイガニの「世界市場」とは,セクション(カニを縦半分に切断した形態)を指している。カナダは1990年代に「世界市場」において一定の地位を確立したが,効果的なマーケッティング活動が出来るまでには至っていない。カナダが「世界市場」において地位を確立した要因は,①漁獲量そのものが急増したこと,②にアラスカでの資源減少によって代替品として米国市場で地位を得たこと,③日本の技術指導の下でミートからセクション加工に転換していたために米国市場に参入できたことである。現在では米国市場向けが60%程度,中国での再加工後の日本再輸出仕向けを含む日本市場向けは25~30%程度となっている。カナダ産ズワイガニは日本市場においては「ガルフもの」と「Newfoundlandもの」が識別されており,前者がセクションのままで流通する高級品とされているの対し,後者は中国で再加工され日本に再輸出されている。このため「ガルフもの」の加工業者は日本市場向けに対してのみ異なる製品展開(例えばガス凍結,小容量パック)を行っている。一方,米国市場では,両者の差はそれほど認識されていない。

  • 楊 清閔, 李 展栄, 宮澤 晴彦
    2008 年 49 巻 1 号 p. 43-62
    発行日: 2008/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル オープンアクセス

    1980年代に諸沿岸国が200海里排他的経済水域を導入したことにより,台湾の中小型マグロ延縄漁業は公海という伝統的漁場を失うと同時に,漁業労働力不足や水産資源の減少といった問題が重なって経営状態が大きく悪化した。しかし,その後台湾の中小型マグロ延縄漁業は,漁場周辺の沿岸国と漁業提携関係を結んで漁場を海外に拡張し,これによって経営状態を改善するとともに,とりわけインドネシアにおいて生鮮マグロの生産量と輸出量を大きく増加せしめた。本稿はこのインドネシアを対象として,台湾中小型マグロ延縄漁業における海外展開の要因について検討している。その際,本稿ではマグロ漁業発展の各時期におけるインドネシア政府の漁業政策の特質に注目し,入漁料方式,傭船方式,合弁事業方式といった漁業提携関係の変化とそれに対する台湾中小型マグロ延縄漁業の戦略的対応策について分析することとした。

  • 岐阜長良川の鵜飼事業を事例として
    中原 尚知, 北野 慎一
    2008 年 49 巻 1 号 p. 63-81
    発行日: 2008/10/01
    公開日: 2020/12/04
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    本稿では,伝統漁業及びそれを活用した観光事業に対する公的資金投入の在り方について,外部経済効果の観点から,岐阜長良川鵜飼を事例に検討を行った。第1に,鵜飼は漁業生産のみでは存立し得ず,その観光資源としての側面を活用した観覧船事業からの収入を得ているものの,乗船客数の減少に伴う採算割れが生じており,公的支援によって存続を可能としている状況を明らかにした。第2に,鵜飼事業が有している様々な機能の発現メカニズムについて整理し,発揮される多くの効果は外部経済効果となっており,公的資金の投入を巡っては,それら外部経済効果を意思決定材料に組み込む必要性があることを指摘した。第3に,岐阜長良川鵜飼のレクリエーション的側面に着目し,トラベルコスト法を用いて岸辺からの見学者が享受している外部経済効果の経済評価を行い,約 3,164万円という結果を得た。

    この数値のみを見る限りでは,鵜飼事業が十分な公共サービスを提供しているとは言い難いが,本稿で評価を行ったのは,鵜飼事業が発揮している効果の一部であるため,より広範に公共サービスの評価を行った上で,事業のあり方について検討する必要性が示唆される。今後は,鵜飼及び観覧船事業の評価に多様な外部経済効果を組み込みながら,より実効性のある公的支援の在り方を検討すると共に,観光事業の質向上を実現し,それを伝統漁業の存続と十全な機能の発揮や自立的な観光事業の存立に繋げていくことが求められよう。

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