柳哲雄によって里海概念が提唱されて以来,国内外に里海の考え方が広がりつつある。しかし,里海の社会科学的側面についてはあまり研究されていない。そこで,里海マネジメントの組織と仕組みを検討するための分析視角と枠組みを明らかにすることを目的として,沿岸域総合管理やコモンズ論と比較しながら里海概念の検証と予備的分析を行う。
里海概念は,人手が加わることによって生物生産性・生物多様性が高まるというこれまでとは全く異なる観点,特に漁業・養殖業の活動自体が生物生産性・生物多様性を高めるというこれまでにない漁業・養殖業のあり方を提起している。この点で新たな「規準」となる可能性を持つが,理論的な掘り下げが不十分であり,多面的な検討による理論の体系化が必要である。コモンズ論を参考にした分析枠組みは,里海を取り巻く環境の変化に対して,管理主体の組織と仕組みの変化,アクセス・ルールと利用ルールの達成内容と達成プロセスへの影響を明らかにすることである。予備的分析の結果,関係者間の協議による新たな地域ルールづくりが有効であるが,関係者が三者以上になると地域の関係者を網羅した組織が必要になり,さらに対象面積が広くなると地域の状況に対応した目に見える範囲の小さな里海とそのネットワークが必要であるという仮説が導き出された。今後は,それらの視角と枠組みによって事例分析を行うことで,沿岸域の新たな利用と管理の規準としての里海の姿が明らかになっていく。