地域漁業研究
Online ISSN : 2435-712X
Print ISSN : 1342-7857
論文
沿岸域総合的管理と小規模沿岸漁業の取組み
山口県椹野川干潟・河口域を事例として
遠藤 愛子
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ジャーナル オープンアクセス

2013 年 54 巻 1 号 p. 1-23

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抄録

これまで日本の沿岸域の大部分は,沿岸漁業者により利用・保全されてきた。言い換えれば,沿岸漁業者が沿岸域を管理する役割を大きく担ってきたが,今後,漁協組合員の高齢化・組員数の減少が進む中,日本の沿岸漁業が抱える諸問題の解決に向けて,これまでの漁業・水産政策の枠組みの中だけではなく,沿岸域総合的管理,つまり,海洋政策という大きな枠組みに漁業・水産政策を位置付けて,問題解決を図るしくみづくりが必要となるのではないだろうか。

山口県椹野川流域では,陸域の環境変化や人間活動が,海域である干潟・河口域を含む海域の資源や自然環境に影響を及ぼし,その結果,漁業資源であるアサリ資源が減少していた。アサリ資源を回復させるためには,干潟・河口域の自然再生に取組む必要があり,陸域と海域を一体的に捉えて管理する必要がある。山口きらら支所の漁業者は,「山口湾の干潟を守る会」を組織して,山口県が設置する椹野川河口域・干潟自然再生協議会の活動に協力し,干潟耕耘作業を主催している。つまり,漁業者が椹野川干潟・河口域の自然再生に果たす役割は,アサリ資源の回復のみならず,干潟環境の回復や,生物多様性・生物生産性回復のための取組みに,関係者と協働して,主体的に参画しているとともに,環境学習の場や,交流の場を提供する役割を担っていると言える。言い換えれば,これまで,沿岸漁業者が中心となって利用・保全・管理してきた沿岸域環境を,沿岸漁業者が関係者と協働して,流域を含めた地域全体で利用・保全・管理していくしくみが構築されている。

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© 2013 地域漁業学会
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