抄録
ヒトRAD18遺伝子は、酵母の損傷トレランスに関わるRAD6エピスタシス遺伝子群に属するRAD18遺伝子のヒトホモログとして単離された。RAD18は、生化学的にはユビキチンリガーゼでユビキチン結合酵素のRad6と複合体を形成して働く。最近、RAD18/RAD6はDNA損傷による複製停止部位でPCNAをユビキチン化し、それにより複製DNAポリメラーゼから損傷乗り越えポリメラーゼへのスイッチングに関与していることが明らかにされてきた。
我々は,RAD18のヒト細胞内での働きを詳細に調べるため,ヒトHCT116細胞から標的遺伝子破壊法によりRAD18遺伝子を破壊したRAD18欠損細胞株を樹立し,その性質を調べた。その結果、ヒトRAD18欠損細胞では、
1.UV照射によるPCNAのモノユビキチン化がおきない。
2.電離放射線にやや高感受性(細胞の生存および染色体異常の誘発について)。
3.DNA二本鎖切断修復の相同組み換え修復(HR)と非相同末端結合修(NHEJ)の主経路は正常らしいのでHRやNHEJとは別の修復経路で働くらしい。
4.単鎖切断を誘発するカンプトテシン(CPT)に感受性が高くまた二本鎖切断を誘発するエトポシドにはそれほど感受性が高くないことからDNAのsingle-strand break (SSB)の修復が欠損しているらしい。
5.ヒトRAD18 cDNA導入により、UV照射によるPCNAのモノユビキチン化の欠損およびCPTにたいする感受性(SSBの修復能)が回復することから,これらの性質はRAD18遺伝子欠損により引き起こされていることが明らかになった。
これらの結果および電離放射線照射やCPT処理ではHCT116細胞においてもPCNAのモノユビキチン化は起きないことから、ヒトRAD18は損傷乗り越え修復以外に単鎖切断修復にも働き、それにはポリメラーゼのスイッチングでは重要であったPCNAのモノユビキチン化は必要ないものと考えられた。