抄録
Werner症候群 (WS) は様々な老化症状が若年齢時より現れることを特徴とする常染色体劣勢遺伝病である。Werner症候群患者由来繊維芽細胞は正常人由来細胞よりも短い分裂寿命を示すだけでなく、ゲノム不安定性、一部のDNA損傷誘導に対して高感受性を示す。WSの原因遺伝子WRNはRecQ helicaseファミリー遺伝子の一つであり、その遺伝子産物は3’→5’ helicase、および3’→5’ exonuclease活性をもつことが報告されている。WRNタンパク質はNBS1, BRCA1, MDC1などのDNA修復関連因子と同様にDNA二重鎖切断(DSBs)発生部位にフォーカス形成をするとともに、Ku70/80, RPAなどと複合体を形成することから、WRNはDNA修復に機能することが示唆される。近年、新たにWRNと結合するタンパク質として、NBS1が同定されたが、NBS1はナイミーヘン症候群原因遺伝子であり、相同組み換え修復やS期チェックポイントなどの幅広くDNA損傷応答を制御することが知られている.それ故、本研究ではDNA二重鎖切断損傷応答におけるWRNとNBS1の相互作用について検討した.
最初に、免疫沈降法でWRNとNBS1のインターラクションを確認すると、DNA損傷の有無にかかわらず、WRNはNBS1と結合しており、またBRCA1との結合も確認された.WRN細胞はDSB損傷によりフォーカスを形成するのでNBS細胞でWRNフォーカスの形成を確認すると、ガンマ線 5 Gy照射、及び低濃度カンプトテシン処理ではフォーカス形成はみられなかった.また、WRNタンパク質はDSB発生後にATM依存的にリン酸化されるが、NBS細胞ではIR照射後のWRNのリン酸化はみられなかった.さらに、FHAドメインを欠く変異型NBS1を発現する細胞ではNBS1とWRNとの結合、およびWRNのリン酸化がみられなかった.これらの結果から、WRNはNBS1との結合に依存して、DNA損傷部位にリクルートメントされるとともにリン酸化され、DNA損傷応答に機能すると考えられる.