抄録
近年、電離放射線によって誘導されるDNAの二重鎖切断(DNA double strand breaks; DSBs)に対する分子・細胞応答については被ばく間期細胞で研究が進み、そのメカニズムが明らかにされつつある。しかし、核膜の消失や染色体形成など間期細胞とは明らかに異なる特性を持った分裂期細胞で、間期細胞で見られる応答がそのまま生ずるかは疑問である。本研究は、不明な点が多い被ばく分裂期細胞の応答を明らかにすることを目的とした。
0.25~6GyのX線を照射した正常ヒト間期細胞では、リン酸化ATM、リン酸化ヒストンH2AX、53BP1は全てフォーカスを形成した。その一方で、被ばく分裂期細胞ではリン酸化H2AXフォーカスのみが染色体上に観察された。また、フォーカス陽性細胞は少ないものの、非照射分裂期細胞でもリン酸化H2AXフォーカスのみが染色体上に観察された。被ばく分裂期細胞がG1期に移行し、その染色体が脱凝集した時に3種タンパク質のフォーカス形成をみると、リン酸化ATM、リン酸化H2AX、53BP1全てがフォーカスを形成し、それらは同じ部位に観察された。
これらの結果より、被ばく間期細胞と分裂期細胞の応答の違いにはクロマチン高次構造が関与していることが考えられ、高度に凝集した染色体ではDSBsが生じてもクロマチン構成因子以外のATMや53BP1はその異常部位に接近できず、クロマチン構成因子であるヒストンH2AXのみがフォーカスを形成するものと思われる。