抄録
RIC1は、放射線高感受性変異体メダカ(Oryzias latipes)であり、初期胚ではγ線照射によるDNA二本鎖切断の修復機構に欠損があることが示唆されている(Aizawa et al. 2004)。本研究では、RIC1と野生型メダカCABの5-8日胚からそれぞれ樹立した培養細胞株を用いて、γ線(10 Gy)照射後の形態変化をtime-lapse観察(照射後0-24時間)により詳細に解析した。γ線を照射したCAB細胞は断片化を伴う細胞死を起こすが、RIC1細胞は断片化を起こさなかった。また、CAB細胞とRIC1細胞ともにγ線を照射した直後から細胞分裂像が観察されなくなった。しかし、CAB細胞はγ線照射24時間後においても細胞分裂は再開しなかったが、RIC1細胞は照射10数時間後以降、細胞分裂を再開した。そこで、γ線照射後の細胞周期チェックポイント制御を詳しく解析することを目的とし、フローサイトメトリーを用いて、放射線照射後の細胞周期の分布を継時的に解析した。その結果、CAB細胞ではγ線照射8時間後、G2期の細胞の割合が増加し、G2-M期チェックポイントが活性化していることが示唆された。一方、RIC1細胞では、γ線照射後10数時間、細胞分裂が見られなくなったにもかかわらず、G1期、G2期の細胞数に変化は見られなかったことから、RIC1細胞ではG2-M期チェックポイントとG1期チェックポイントがともに活性化していることが示唆された。ric1遺伝子の変異により、DNA二本鎖修復機構、細胞周期チェックポイント、細胞死の全てにおいてCABとの違いが見られることから、ric1遺伝子がDNA二本鎖切断修復機構、細胞周期チェックポイント、細胞死を関連づける要となる遺伝子である可能性が示唆された。