抄録
高線量被ばくに対する対応は線量に応じて大きく異なる。10 Gy以上ではいかに高度な現代医療を駆使しても救命は困難で、当面はDNA損傷に対する再生医学の発展に期待するしかない。一方それ以下の被ばくでは症例により治癒が可能となり、医療の質次第で救命率が変わるために、未来の医学はともかく現時点における最善の医療はどうあるべきかを検討する領域となる。そこで問題になるのは高線量被ばくが極めてまれであり現場から得られる経験が乏しいことであるが、一方で視点を変えると日常の医療において急性被ばくに近い状況である造血幹細胞移植からは学ぶべき点も多い。治療目的の全身照射では、分割照射とはいえ3日間で合計12 Gyの照射に加え致死量のDNA損傷薬剤が投与されるが、今や大学病院以外でも日常的に行なわれる医療になっている。造血幹細胞移植を安全に行うためには合併症の評価、特に心肺機能の評価や感染症をおこしやすい臓器の評価が重要である。したがって、放射線被ばくは予期ができない災害ととらえられ一般医療のような予防医学の概念は導入されていないが、急性被ばくの治癒率を高めるためには造血幹細胞移植に対する準備と同類のことを日常の医療でも心がける必要がある。それらは国民のレベルでは生活習慣病の予防や感染症の治療ということであり、現時点で10 Gy以下の急性被ばくから一人でも多く救命するためには日常の医療の標準を徹底することを放射線影響の立場からアピールする必要がある。