抄録
【背景】紫外線(UV)はDNAにシクロブタン型ピリミジンダイマーや6-4型光産物などの特異的損傷を生成するため突然変異誘発作用が強く、ヒト皮膚癌の主要な誘発因子である。UV損傷の修復に関わるヌクレオチド除去修復(NER)能に欠損のある遺伝病色素性乾皮症(XP)の患者は日光露光部に高頻度に皮膚癌を発生する。【本論】我々は突然変異検出用トランスジェニックマウス(Mutaマウス)を用いて、NER欠損XPモデルマウスの皮膚表皮でUVBによって誘発される突然変異を解析した。Xpg遺伝子exon15を欠失したXpg変異マウス、Xpaノックアウトマウス、及びXpcノックアウトマウスを用いたが、いずれのXPマウスも野生型マウスに比べ皮膚表皮で64PPの修復に欠損を示した。更にUVBで誘発される突然変異スペクトルを解析したところ、いずれのNER欠損マウスもC→TのUV特異的塩基置換が最も高頻度に発生することが認められ、この点では野生型マウスとよく似た変異スペクトルとなった。しかしNER欠損マウスは次の2点で野生型とは大きく異なっていた。ひとつはUV signature mutationとも呼ばれるCC→TTの並列塩基置換が高頻度に検出されたことで、XP細胞を用いたin vitro突然変異解析系で報告されているデータと一致した。もうひとつは従来は知られていなかったtriplet mutationというタイプの変異がNER能の欠損度合いに応じて検出されたことである。我々はtriplet mutationを、dipyrimidineを少なくともひとつ含むヌクレオチドが3個並んだ配列の中で、2~3個の1塩基置換または1塩基フレームシフト変異が発生して生じるタイプの変異と定義している。この新たに確認されたUV特異的突然変異はNER欠損によって顕著に出現する。我々はtriplet mutationをその塩基配列変異パターンからいくつかのタイプに分類し、それぞれの原因損傷や発生機構について損傷乗越えDNA合成(TLS)に基づくモデルを提唱する。