抄録
私たちは低線量放射線影響研究に有力なツールであるX線マイクロビーム細胞照射装置を開発して放射光科学研究施設での共同利用に供している。その性能は、最小ビームサイズが5ミクロン角でそれ以上の任意のサイズのビームが利用可能、X線エネルギーは5.35 keVで固定、線量率は毎秒約40 Rである。システムソフトウエアの改良の結果、現在は領域スキャンモードで、決められた領域内の標的を自動的に探し出し、認識し、照射することが出来るようになったので、生存率曲線を精度良く得ることが出来るようになった。また、これと位置座標情報を共有できる照射効果観測用のオフライン顕微鏡にはレーザー共焦点顕微鏡が組み込まれたので、免疫蛍光抗体やGFPの検出感度は非常に高くなった。
一方で、放射光の特徴である波長可変性は、垂直ビームを利用している現在の装置では活かすことは出来ない。低線量域では放射線によって誘導されたシグナルが細胞内外に伝達されて生物影響が発現していることが知られてきたので、シグナル誘導過程におけるエネルギー量依存性が着目されている。そこで照射X線エネルギー可変のマイクロビーム細胞照射装置を開発している。この装置では細胞試料を載せるステージが鉛直平面内にあるので、位置の再現性や、細胞試料の生理的な条件が良好に保てるか、等の問題が有る。これらに関する検討結果をふまえた装置がほぼ完成し、この秋からテストが始まる。