日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: BP-218
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突然変異と発癌の機構
gpt-deltaマウスを用いた複合暴露胸腺細胞における欠失変異の解析
*山内 一己柿沼 志津子須藤 聡美太田 有紀鬼頭 靖司増村 健一能美 健彦西村 まゆみ島田 義也
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抄録

我々はこれまで放射線と化学物質の複合影響について、B6C3F1マウスの胸腺リンパ腫(TL)の発生率を調べてきた。X線0.2Gyの 4回前照射はエチルニトロソウレア(ENU)による発がん率を抑制し、1Gyの4回照射はENUと相乗的に発がん率を上げることを報告した。複合暴露下で胸腺にどのようなDNA損傷が生じているかを明らかとするため、塩基置換(gpt)と欠失(Spi-)を検出できるgpt-deltaトランスジェニックマウスを用いて解析した。昨年は、gptアッセイにより、0.2GyのX線の前照射ではENUにより誘発される突然変異頻度(特にG>A)が抑制され、1Gyの前照射では増加することを報告した。今回は、Spi-アッセイにより複合暴露による欠失変異について解析したので報告する。
[材料と方法]
4週齢のB6C3F1 gpt-deltaマウスにX線を0.2Gyもしくは1Gyを週1回、4回照射した。次に200ppmのENUを4週間飲水投与し、その後4週間飼育した。胸腺DNAを精製し、ファージを回収後、XL1-Blue MRA(P2)株に感染させ生じたプラークのファージのred/gam遺伝子を含む領域の欠失および点突然変異を解析した。
[結果]
各解析群の変異頻度は1~7x 10-6であり、ENU群で顕著に上昇した(P <0.05)。gam遺伝子の塩基配列解析から、X線照射群やコントロール群では同一塩基が複数並んでいるラン配列上の一塩基欠失が高頻度(70%以上)に見られたのに対し、ENUや複合暴露群では一塩基欠失に加え塩基置換変異が主に見られた。大きな領域の欠失頻度は小さく、グループ間での差は見られなかった。gam遺伝子では、0.2Gyの前照射によって塩基置換も一塩基欠失も変異頻度の低下が見られたが、有意差は見られなかった。
以上のgptアッセイとSpi-アッセイの結果から、X線照射後ENUを投与して誘発したTLの発生では、0.2Gy照射による発がん率の低下は点突然変異の抑制であり、欠失変異の関与が小さいことが示唆された。

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© 2007 日本放射線影響学会
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