抄録
標準的なトランスクリプトーム解析に必要なRNA量はトータルRNAにして数マイクログラムである。HiCEP解析も開発当初polyA RNA 1~2μg(トータルRNA 100μg相当)を要した。しかし、実際のトランスクリプトーム解析のアプリケーションを考えると、~10,000細胞(トータルRNA 0.1μg相当)、さらには~100細胞(トータルRNA 1ng相当)程度での解析が多く求められている。この量のRNAを用いた解析が可能になれば、需要の大きな血液および生検材料を用いた診断から、FACSやレーザーマイクロダイセクション法などを用いて特定の細胞を分離するような特殊な研究まで、解析対象や応用分野の飛躍的な増加が期待できる。そこで我々は、より少ない出発材料での発現解析の可能性を検討した。
初めに、高純度トータルRNA標品の希釈系列で実験を行った。まず、HiCEP基質のPCR増幅により、トータルRNA 0.1μg(~10,000細胞相当)を用いた解析が可能となった。基質の平均鎖長が150ベース程度であることから、増幅におけるバイアスが小さく、直線的増幅が達成された。さらに、合成アダプターのリン酸化、逆転写酵素そのもの、またその反応諸条件を詳細に検討する事により、トータルRNA 0.5~1ng(50~100細胞相当)の解析が可能になった。次に、希釈RNAではなく、実際に少数の細胞を用いたHiCEP解析を行ったところ、10細胞解析の可能性が示された。40コピー/細胞以上の転写物ならば正確なモニタリングが可能であり、従来技術と比較し大きな進歩が見られた。現在、単一細胞を用いた解析を試みており、その可能性も得られつつある。