抄録
DNA mismatchとはDNA複製の際にポリメラーゼの誤りによって生じる誤対合のことである。mismatchは正常に修復されなければ、突然変異を引き起こすことになる。そこで、生物はmismatchからゲノムの安定性を守るためにmismatch repair(MMR)というDNA修復機構を進化させてきた。MMRは大腸菌からヒトまで高度に保存されており、大腸菌ではMutS、 MutL、 MutHの3つの修復タンパクによって、ヒトではMSH2、 MSH3、 MSH6、 MLH1、 MSH3、 PMS1、 PMS2の7つの修復タンパクによって修復されることが知られている。MMRでは誤対合のほかにもDNAの複製ミスによって生じるInsertionやDeletion、さらにはDNAの酸化的塩基損傷も修復される。(我々はこの誤対合修復以外の修復に注目し、線虫C. elegansを用いて研究を行っている。線虫は寿命が20~30日程度で、飼育が容易であることから老化のモデル生物として広く用いられている。また、成虫以降では細胞分裂を停止するために、正常に成長した成虫の寿命に対する誤対合の影響をほぼ無視することができる。本研究では、線虫を用いてMMRの誤対合修復以外の機能が老化に与える影響を評価し、そのメカニズムを解析すると共にMMRに関する新たな知見を得ることを目的としている。線虫においてはMMRに関わるタンパクとしてMSH2、 MSH6、 MLH1、 PMS2の4つが存在する。今回、MSH2、 MSH6、 MLH1、 PMS2それぞれの欠損株の寿命を測定したところ、MSH2、 MSH6、 MLH1の3つの欠損株は短寿命の表現型を、PMS2の欠損株は長寿命の表現型を示した。この結果は誤対合修復以外の要素が線虫の寿命に何らかの影響を与えていることを示唆するものである。本発表ではMMRの酸化的塩基損傷が線虫の寿命に対する影響を報告する予定である。