日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第53回大会
セッションID: PA-2
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A DNA損傷・修復
非相同末端結合欠損ヒト細胞の過酸化水素高感受性
*勝部 孝則森 雅彦辻 秀雄塩見 忠博小野田 眞
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抄録
DNA二本鎖切断(DSB)は放射線の最も危険な生物影響のひとつである。高等真核生物では,相同組換え(HR)と非相同末端結合(NHEJ)の2つのDSB修復機構が知られている。HRが細胞周期S期後期からG2期に特異的なのに対して,NHEJは細胞周期に依存しない。放射線高感受性齧歯類細胞の解析から同定されたXRCC4は,NHEJ主要因子の一つである。我々は,ヒト大腸癌由来のHCT116細胞を用いて,ジーンターゲティング法によりXRCC4遺伝子欠損(XRCC4-/-)細胞を構築した。ヒトXRCC4-/-細胞はDSBの修復に重篤な欠陥があり,放射線高感受性である。一方,HRには異常が無いことを示す結果が得られており,ヒトXRCC4-/-細胞はNHEJ不全と考えられる。今回,ヒトの放射線影響への活性酸素の関わりを明らかにすることを目指して,XRCC4-/-細胞の過酸化水素(H2O2)に対する細胞応答を検討した。H2O2処理後のXRCC4-/-細胞の生存率は,親株に較べ有意に低くかった。DSBのマーカーとされるγH2AXフォーカスについて検討したところ,親株とXRCC4-/-細胞の両方で,H2O2処理によるγH2AXフォーカスの誘導が確認された。しかし,X線で誘導されるフォーカスと異なり,H2O2によるγH2AXフォーカスは必ずしもATMフォーカスと共局在しないことから,X線によるDSBと質的に異なる可能性が示唆された。さらに,染色体異常の発現頻度を経時的に検討したところ,G1期後期~S期前期のXRCC4-/-細胞が,H2O2に極めて高感受性であることが示唆された。G1期後期~S期前期にH2O2により生じたDNA損傷が,DNA複製を介してDSBに変換される可能性がある。また,そうしたDSBの一部は,NHEJによって修復される可能性がある。
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© 2010 日本放射線影響学会
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