抄録
放射線誘発白血病は放射線影響研究の原点であり、放射線・化学療法後の二次性白血病の多発という、すぐれて今日的問題でもある。本シンポジウムでは必ずしも血液学を専門としない放射線研究者を対象に、疫学、その分子メカニズムから、予防法の開発まで、基礎的な知見と先端的な研究を紹介する。
原爆被爆者の白血病の多発は、早くも投下2年後に始まり、7年後にピークに達したのち、約30年を経てほぼ収束した。一方、白血病と入れ替わるように、骨髄異形成症候群(MDS)という白血病と緊密に関連する血液疾患が増加し、65年経った今日でも発症率が高止まりしている。被爆後早期の白血病の多発は染色体転座からのキメラ遺伝子形成によるものと考えられているが、遅発性のMDSにはAML1/RUNX1転写因子の点突然変異や7番染色体の欠失などが深く関与していることが明らかとなった。また、小児白血病・小児がん患者の放射線修復遺伝子解析から、放射線による発がん頻度が高いグループの存在が想定されており、個人レベルでの放射線発がん予防や低線量放射線防護の観点から注目される。
本シンポジウムではこれらのテーマについて最先端の研究の紹介を行ったのち、総合討論で今後の研究の方向性を議論したい。