日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第53回大会
セッションID: S3-3
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シンポジウム3 放射線誘発白血病:原爆疫学・分子メカニズムから予防法の開発まで
7番染色体長腕欠損による白血病発症メカニズム:責任遺伝子の単離と機能解析
*松井 啓隆稲葉 俊哉
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抄録
急性骨髄性白血病(AML)や骨髄異形成症候群(MDS)では、10~30%の症例で7番染色体全長もしくは長腕の部分欠失(-7/7q-)を認め、治療抵抗性で予後不良であることが知られている。また放射線治療後や化学療法後に発症する二次性白血病では、-7/7q-は半数以上の症例に見られることから、7番染色体長腕上の責任遺伝子単離と治療方法の開発が求められてきた。われわれはアレイCGH法を用い、7q21.3のAML共通微小染色体欠損領域から3つの責任遺伝子候補(Samd9=Kasumi, Samd9L=Titan, LOC253012=Miki)を単離し、その機能解析を進めてきた。3遺伝子のうち、KasumiTitanはアミノ酸レベルで約60%の相同性を有する関連タンパク質をコードしており、マウスはTitanに相当する遺伝子のみを有する。そこでわれわれはTitan遺伝子欠損マウスを作製し、個体レベルの解析を行った。その結果、本マウスは対照群に比べ高頻度にAMLを発症したことから、Kasumi/Titanが実際に-7/7q- AML/MDSの有力な責任遺伝子候補と考えている。Titanタンパク質はその一部が細胞質内の小胞に局在し、細胞内に取り込んだサイトカイン受容体の分解制御に関与しているようである。Titan発現抑制細胞では、サイトカイン受容体の適切な分解がなされず、細胞内に受容体を蓄積しサイトカイン・シグナルの活性化が遷延する。これがAML/MDS細胞の増殖や分化抑制につながっているのではないかと考えられる。一方、もうひとつの責任遺伝子候補Mikiは、細胞分裂期の中心体と紡錘糸に局在するタンパク質をコードする。Miki発現抑制細胞の表現型から、Mikiは分裂期中心体の成熟を担うタンパク質のひとつと考え、解析を進めている。-7/7q-を伴うMDSでは、高頻度に分裂細胞の形態異常や、それに伴う核形態異常を認めることも、Mikiが造血細胞の分裂制御に関与することを示唆している。現在、-7/7q-と協調的にAML/MDS発症に関与するジェネティックおよびエピジェネティックな遺伝子発現変化をとらえることに注力しており、-7/7q-のAML/MDS発症メカニズム解明と治療法の開発につなげることを目指している。
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© 2010 日本放射線影響学会
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