抄録
低線量・低線量率放射線影響のリスク評価は、安全かつ有効に放射線を活用する上で非常に重要な問題である。我々は低線量・低線量率放射線の線源としてトリチウム水(HTO)を用い、高感度検出系により、低線量における細胞レベルの突然変異誘発の線量率依存性を調べている。我々が用いている高感度検出系は、hprt遺伝子を欠損したハムスター細胞に正常なヒトX染色体を移入した細胞で、ヒトHPRTの変異を調べる系である。仮にヒトX染色体上に広範囲な欠失が生じても、ハムスター細胞自体の生存には影響せず、突然変異体として検出が可能である。実際、従来の検出系よりも50~100倍高感度であることが確認できている。この高感度検出系細胞にトリチウム水を低線量率で照射し、6-チオグアニン耐性コロニーの出現頻度から突然変異頻度を算出した。これまでに調べた0.09cGy/hまでの線量率では、誘発突然変異頻度に対し、線量率の違いによる有意な変化は確認できなかった。現在、さらに低い線量率での実験を続けている。