20世紀初頭に収集されたアタヤル語群(アタヤル語とセデック語)の語彙集を基に,アタヤル祖語とセデック祖語における「家」と「屋内」の形式を再建し,その結果,それらが同源語でないことがわかった。アタヤル語の「家」は四つの形式(ŋasal, saliʔ, muyaw, imuu)が見られるが,ŋasalが本来の形式で,saliʔはこれから派生された。imuuはツォウ語からの借用形であり,muyawは本来「屋内」を表す語である。セデック祖語の「家」は*sapahで,「屋内」は*ruanである。セデック語の「内側にある」はtə-rumaというが,語根rumaはオーストロネシア祖語*Rumaq「家」の反映形だろう。幾つかの台湾オーストロネシア諸語では*Rumaqの反映形に接辞を附加することにより「屋内・内側」を派生するからである。