X線光電子分光法(XPS)の化学状態分析において,データ処理時の帯電補正は重要である.表面汚染炭化水素のC 1sは最も手軽に使われるエネルギー基準の一つであるが,測定条件,機種によって変化する可能性があるなどの問題が指摘されている.そこで表面汚染炭化水素プロジェクトでは,同一の試料とエネルギー軸較正方法で,Au板およびAu薄膜上に堆積した表面汚染炭化水素から検出されるC 1sの束縛エネルギーと炭素濃度の相関について調査するラウンドロビンテストを行った.その結果,(1) Au板で自然増加した汚染炭化水素のC 1s値は284.69±0.12 eVとほぼ一定であること(原子濃度比C/(C+Au):0.52-0.78の領域で),(2) Au薄膜/Ni42Fe58合金はC量増加に伴いC 1s値が高束縛エネルギー側へシフトすること(原子濃度比C/(C+Au):0.41-0.67の領域で),(3) Au薄膜/ガラス基板はC量とC 1s値に相関・再現性が無いが,C 1s値は284.8~285.4 eVと高い値に出ること(原子濃度比C/(C+Au)>0.5の場合)がわかった.また,(4)光電子取出し角を変化させ見かけのC量が増加しても,C 1s値の変化は0.2 eV以内でほぼ一定であること,(5)スパッタクリーニング直後はC 1s値が高束縛エネルギー側で検出され,数時間経過後にはアモルファスカーボンの状態と考えられる低めのピーク位置へとシフトした後,C量の増加にともないC 1s値が高くなっていくことなどを確認した.