抄録
従来血液透析用dialyzerとして用いられて来たPMMA(polymethyl methacrylate)膜のすぐれた生体適合性に注目し, 新たにPMMAを素材とする血漿分離膜を開発してきたが, 今回この血漿分離膜を用いて肝全摘犬に対して正常ドナー犬門脈系との間で最長26時間におよぶ血漿交又灌流を行い病態の改善と生存時間の延長に明らかな効果を認めた。方法は雑種成犬に全麻下に開腹, Gore-Tex人工血管を用いて一期的に肝全摘を施行, 内頸静脈と大腿静脈に灌流用カニューレを挿入した。一方, 正常ドナー犬を開腹し, 脾静脈から門脈系へと, 大腿静脈へ同様にカニューレを挿入した。肝全摘後6時間目から, これら2頭の肝全摘犬と正常ドナー犬の間で2つのPMMA血漿分離膜で分離された血漿を肝全摘犬の全身血流とドナー犬の門脈血流へ交又灌流する血漿交又灌流を開始した。二つの血液ポンプの速度は50ml/分, 血漿ポンプは15ml/分に保った。
術前, 術中を通して脳波, 動脈圧, 心電図を持続的にモニターし, また血液, 脳背髄液を3時間毎に採取し, 一般生化学検査の他に遊離アミノ酸, 胆汁酸の測定を行った。
血漿交又灌流開始後数時間で, 自他覚的所見脳波の改善がみられ, 血中遊離アミノ酸, 胆汁酸濃度の低下, 改善がみられた。一方ドナー犬は灌流開始後一時意識レベルの低下ば認められたが次第に回復し, 肝全摘犬の遊離アミノ酸, 胆汁酸等の有害物質の門脈系への高濃度の流入にもかかわらず, 末梢血ではいずれも正常レベルに保たれていた。26時間の血漿交又灌流中PMMA膜は, TMPの上昇や溶血などを生じず安定した濾過性能を示した。本法は完全なcell-freeの血漿の交又灌流であるので, 免疫学的な反応防止上有利であり, また, 直接ドナー肝により肝全摘犬の有害物質の代謝が行われるため, 肝不全物質解毒の効率の点や, ドナーへの有害物質の作用を最小限に抑える点からも有効な方法と考えられる。