芸術学論集
Online ISSN : 2435-7227
植物画におけるヴェラムの使用法
─近世作品に見る描画技法と保存のための処置─
池田 真理子
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キーワード: ヴェラム, 羊皮紙, 植物画
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2020 年 1 巻 p. 13-22

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抄録

ヴェラムは羊皮紙の一種で、主に紙の普及以前に用いられた古典的な支持体である。現代植物画における欧米での利用増加に伴い、国内でも注目度が高まっている。しかしながら、その使用法に注目した先行研究は乏しく、作家は制作上の問題に直面してきた。そこで本稿では、制作者としての立場から水彩絵具での植物画制作におけるヴェラムの特性を考察し、保存性に配慮した実践的な使用法、並びに有用な描画技法を提示した。

研究方法として、ヴェラムに描かれた近世ヨーロッパの植物画を対象に、経年劣化、保存修復方法、描画技法の調査を行なった。併せて、現代作品におけるヴェラムの使用法、現代の羊皮紙製造方法と製品の調査を行なった。

その結果、ヴェラムの品質が劣化に関係していること、歪みや波打ちは湿度変化に影響を受けることが確認された。これらの問題点に対して制作者に可能な処置は、厚さや色みの均一な仔牛のヴェラムの選択、保存環境の維持、補助的な支持体への固定である。自作によって具体的な問題点への対処法を検証した。

また時代の変遷によるヴェラム製品の質の変化、描画に使用される面の反転、それに伴う描画技法の変化が確認された。紙が主要な媒体となった現代において、最盛期のヴェラムへの描画技法は作品制作の手がかりとなる。よって自作品を通して、近世作品に見られる描画技法の有用性を検証した。

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