2022 年 24 巻 2 号 p. 168-175
国産ダイズの生産力強化のための多収品種の開発は,国内のダイズ育種現場における最重要課題の一つである.東北地域は,ダイズの作付面積が全国で上位の県が多いにもかかわらず,その収量は全国平均より低い.したがって,東北地域のダイズ収量の向上は,国産ダイズの生産力向上につながると期待される.近年の東北地域では,適期収穫できない場合の裂莢,およびダイズシストセンチュウ(SCN)レース3抵抗性品種を侵すSCN個体群による被害が減収要因として懸念されている.そこで本研究では,東北地域の多収品種「ふくいぶき」にDNAマーカー解析と戻し交配を利用して,難裂莢性を付与した「東北185号」およびSCNレース1抵抗性(SCNレース3抵抗性より高度なSCN抵抗性)を付与した「東北189号」を開発した.「東北185号」は,「ハヤヒカリ」を難裂莢性の供与親として開発され,その裂莢率は「ふくいぶき」と比較して有意に低かった.「東北189号」は,「To-8E」をSCNレース1抵抗性の供与親として開発され,「ふくいぶき」が感受性を示すSCNレース1個体群に抵抗性を示した.「東北185号」および「東北189号」の「ふくいぶき」に対する農業特性の同等性を評価するため,成熟に要する日数,倒伏程度,主茎長,最下着莢節位高,子実収量,百粒重および粗蛋白質含有率を調査した結果,「東北189号」の子実収量および百粒重が「ふくいぶき」より低い傾向が認められたものの,全形質について両系統と「ふくいぶき」の間で統計的に有意な差異は検出されなかった.現在,東北地域には難裂莢性とSCNレース1抵抗性の両方を備えた品種は存在しない.SCNレース1抵抗性を導入する場合は,導入遺伝子が収量および粒大に与える影響に注意する必要があるが,「東北185号」と「東北189号」を交配することにより,「ふくいぶき」の多収性を受け継ぐ,東北地域向け難裂莢性かつSCNレース1抵抗性品種を開発できると考えられる.