2023 年 25 巻 2 号 p. 123-139
温暖化に対応した早生化及び晩生化は水稲の重要な改良目標である.しかしながら,改変された出穂期表現型の安定性や他の農業形質に与える多面効果は利用する出穂期遺伝子ごとに異なるため,育種における不確定要素となっている.本研究では,長野県育成系統「信交538号」,千葉県育成品種「ふさおとめ」及び「ちば28号」の遺伝背景に,Ghd7,Hd16及びHd1遺伝子の早生型または晩生型アレルを導入した準同質遺伝子系統群を作出して遺伝効果を評価した.「信交538号」の遺伝背景では,Ghd7遺伝子の早生型アレルを導入した系統の出穂期改変効果は9日から13日の早生となり,Hd16遺伝子の早生型アレルを導入した系統の出穂期改変効果は1日早生から8日晩生であった.他の農業特性については,Ghd7導入系統は,短稈で穂数が増加したが,玄米重が減少した.Hd16導入系統はほぼ同等であった.「ふさおとめ」及び「ちば28号」の遺伝背景では,Hd1遺伝子の晩生型アレルを導入した系統の出穂期改変効果は約13日の晩生,Hd16遺伝子の晩生型アレルを導入した系統は約3日の晩生,Hd1及びHd16遺伝子の晩生型アレルを導入した系統は約28日の晩生となった.Hd1導入系統は他の導入系統と比較して,「ふさおとめ」や「ちば28号」に最も近い農業特性を示した.これまでに育成された出穂期に関する準同質遺伝子系統のデータも含めて検討した結果,Ghd7遺伝子と比較してHd1やHd16遺伝子の改変で得られる出穂特性は遺伝背景や環境の影響を受けやすいと推定された.出穂期の改変を目的としたゲノム育種においては,導入遺伝子の特性を事前に評価,検討することが必要である.